27G鈍針の先端0.5-1mm程度で120-135度に曲げた針を作成すると扱い易いです(図13)。ハイドロ針が市販されていますが、核の回転やHydrationには使いにくいため、万能な27G鈍針を推奨します。
シリンジは、2.5ccと 5ccどちらでも使い易いもので構いませんが水流や水量のコントロールがし易い5ccを推奨します。シリンジはロック機能付きが必須です。
ここで、水晶体の解剖をまた思い出してください(図3-5)。水晶体線維が何層にも積み重なった構造をしているのでそれを意識してHydro dissection(ハイドロ)を行ってください。注入した灌流液が前房方向に逆流しないためには、水晶体赤道部付近まで刺入した鈍針をやや後囊方向に向けて注入することがコツです(図13-1❶)。初心者は、針先が嚢に触れて後囊破損が生じないか心配されている様ですが、水晶体赤道部の嚢の厚さは22μmと前後囊の数倍の厚さでありかつ伸縮するため鈍針が触れただけでは決して破れることはありません。また初心者の針先は、図13-3❶の位置にあることが多く、柔らかいエピが皮質と嚢に付着したまま残ることがあります。このエピは、超音波チップでは吸引困難であり、強引に吸引を試みると後囊を吸引し後囊破損の原因になります。ビデオとイラストで示す位置でハイドロを行えば、少ない水量かつ一回でハイドロは完了します。 前房にOVDが充満していると、水流は水晶体嚢内には廻りません。このため、まずは前房のOVDをある程度除去した後、前嚢直下から鈍針を水晶体赤道部近傍まで進めやや後囊方向に向けます。ゆっくりじわじわと灌流液を注入しその水流により水晶体皮質を分離します。この時、水流を勢いよく注入すると水晶体核が脱臼してしまうため、分離が半分程度まで進んだら一旦注入を止めます(図13-1-❶)。皮質の癒着が強い症例では水流がうまく回らないことがありますが、その場合は一旦中止して逆方向から灌流液を注入します。今度は、針先を前嚢直下から水晶体赤道部まで挿入し、針先を後囊方向にむけてから灌流液を注入します(図13-1-❷)(ビデオ ハイドロ)。水勢はゆっくりで構いません。全周に灌流液が回ると皮質の分離が生じ徹照光がやや減弱します。その後、シリンジ先端の鈍針を使って核を回転するとその後の処理が簡単になります。チン小帯の脆弱、皮質と核の癒着が強い症例、散瞳不良例では核が回転しない場合もあります。この場合は無理してチン小帯を損傷させることは避けるべきで、回転を諦め次の工程に進みましょう。ハイドロが完成していればチン小帯脆弱例以外の核は必ず回転します。チン小帯は一方向への負荷には弱いのですが、回転方向にはチン小帯全体に均等に負荷がかかるためより負荷は少なくて済みます。それを意識して核を回転しましょう。時計回り、反時計回りどちらでも構いませんが、一方向で回転ができない場合は逆方向に回転するとほとんどが回転します(図13-2-❶-❹)。回転させるためのコツは、核を回す事なので矢印の位置(図13-2❶❷)で核を確実にシリンジ先端で捉えて石臼を回すイメージで回転力を核にかける事です(図13-2-❺、❻)。具体的には、CCC切開線の近傍に針先を核に向かって打ち込み核(図13-2-❶、❷)を針先で確実に捉え円を描く様に回転させます(図13-2-❸-❺)。水晶体前面と平行に針先を動かすと、上手く核に力が加わらないので、回転方向のやや下方に向けて力を加えて回転しましょう。一方向で回転しない場合は逆方向にもう一度回転させると殆どの核は回転します(ビデオ)。初心者がうまく回転できない理由は、エピを核と誤解しているため核を捉えていない場合が多く、回転力を加えるとエピ内を針が動いてしまい核が回転しない様です(図13-2-❻)。シリンジ先端を核方向に刺入して行くと硬い核にぶつかりそれ以上刺入できなくなった場所が核です。また、直線的にシリンジ先端を動かしてしまい回転力が加わっていない場合も多々あります。片手操作は難しいので両手を使って回転力を核に加えましょう。例えば石臼、福引用のガラガラ、水門開閉用のハンドル等を回すように核に回転力を加えてください。
核が上手く回転しない場合、指導医はハイドロ不足と言いますが、これは間違いです。核を確実に捉えて回転力を加えられない事が原因です。練習方法ですが、ペットボトルのキャップと10円硬貨、27G鈍針(爪楊枝で代用可)を用意してください。10円硬貨をキャップの中に置き、鈍針で回転してください。まずは、キャップを固定して硬貨のみを回転してください。コツが掴めてきたら、キャップを固定せずに回転してください。今度は、キャップも回転したと思います。これもできる様になったら、鈍針の先端から1cmあたりを左指で挟んで固定して回転してみてください(角膜創口を意識して)。これで回転できればコツが掴めていると思います。更に工夫して、キャップに孔を開けて、角膜創口を意識した核の回転を練習してみてください(ビデオ)。
ハイドロで水晶体嚢と皮質の分離を行うもう一つの目的は、後囊前面を流れる水流の位置から水晶体の後面の位置を同定して、フックやチップの操作可能範囲を確認することです。しかし、水流が確認出来ないと何回も灌流液を注入しがちですが、Delaminationになってしまい徹照光の通過を阻害して水晶体の後面が確認困難になって行きます。このため灌流液の注入は1−2度にすることで、水晶体の後面が核操作時に確認し易くします。水晶体後面に水流が確認できればそれ以上の注入は不要で、正しく核に回転力を加えると核は回転します。核が回転できない最大の理由は、回転手技の問題です。練習に励んでください。例外的で低頻度ではありますが、チン小帯が非常に脆弱症例では核の回転は困難であり強引な回転でチン小帯断裂が更に進行します。こうした症例の手術方法は、別途解説予定です。チン小帯脆弱症例は、前嚢切開時には診断できます。指導医にお任せしましょう。
また、ハイドロ時に、水晶体後面を動く水流の速度が速い症例は癒着が軽度で核は簡単に回ります。逆に、速度が遅かったり、普段より注入液量が多かった症例は癒着が強く回転困難と考えましょう。
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