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人間の手足の動きの特性

更新日:2021年11月29日



白内障手術初心者の殆どは、皆さん同じような器具の把持、左手の添え方、器具を握る力で白内障手術を行い、それを観察しても手の動きに違和感はそれほど感じられません。しかし、顕微鏡下に観察される手術は、ぎこちなく、窮屈で、辿々しく見えるはずです。

ゴルフには、ゴルフ用のグリップやスウィング、野球には野球用のバットの握り方や振り方がある様に、顕微鏡下白内障手術にも手術用の手の使い方がある事は容易に理解できると思います。ですが、教育を受けないまま自己流で手術を行うと日常的に習慣化した両手の使い方を顕微鏡下手術に持ち込んで手術手技を行うため、殆どの初心者が同様の手術手技を行っていると思われます。

初心者でも、症例を重ねるごとに自身の手術手技のぎこちなさや窮屈さに気づき修正したり先輩の手技を盗んだりして成長する術者もいます。しかし多くは、自己流のままただ症例を重ね一定の手術レベルに達した頃に自己満足し、成長が止まっている様です。

手術を上達させたい初心者には、顕微鏡下手術には特別な手の動きが必要であることを充分に理解して貰い、その手の使い方を早期に習得した後、症例を重ねることが必要です。


人間の手足の動きの第一の特徴は、大きく素早く動かすことを得意とし、顕微鏡下手術で行う様なμm単位の距離をゆっくり確実に動かすことがやや苦手であるという特性があります。顕微鏡下で行う手の動きは日常的に行われる事はなく特殊な手の使い方である事を考えれば納得出来ると思います。逆に、日常で良く使う手の動きを行った所を顕微鏡下で観察すると素早く乱暴に見えるでしょう。初心者は、日常的に使い慣れた手の動きを顕微鏡下手術でも同様に行っていると言うことです。素早い動きを多用して手術時間の短縮に腐心している中堅の術者を見かけますが、素早い動きにはミスがつきものであると共に後嚢の誤吸引、フックによる嚢の引っ掛け等、咄嗟に予期せぬ出来事が起きた場合に適切に対応できる時間的余裕がありません。しかし、ゆっくりした動きによる確実な処置にはミスが起こった時に適切に修正する時間を確保できるとともに、その時々の眼内の状況を詳細に観察する習慣も付くと思います。手術時間を1-2分短縮することを目指すのではなく、手術侵襲と合併症を最小限に抑えることを目標にして、顕微鏡下でゆっくりと確実な手の動きをマスターしましょう。合併症を起こしてしまうとその処理には時間がかかります。平均手術時間は全く変わらないのではありませんか?


第二の特徴として、針の穴に糸を通すように小さな一点に集中すると手が震えたり、全く意図しない動きになったりする(不随意運動)特性があります。これを予防するためには両手による手技を基本とすべきで、両手で手術することで手の震えや不随意運動はかなり予防できます。また、一点に集中するのではなく大体この辺りと考えると正確な位置に到達可能です。また日常的に使う、素早い動きと顕微鏡下手術に必要なゆっくりとした動きをメリハリをつけて使い分けることも一つの予防策です。ゆっくり動かそうとすると不随意運動は起こり易いからです。


第三の特徴として、過度の緊張や感情の高ぶりにより手が震えたり不随意運動が起こったりする特性があります。緊張や感情のコントロールも術者には必要な能力です。こうした状況にある場合は、一息ついて深呼吸をすることです。この間10秒程度でかなり緊張から解放されるでしょう。また人それぞれ緊張の解消法があると思います、それを実践しましょう。周りのスタッフには笑われるかもしれませんが、合併症を起こしてしまうより恥ずかしい事ではありません。

過度の緊張下に顕微鏡で眼球をより良く観察しようとすると、器械近視になり何処にピントが合っているか分からない状態になったりします。緊張をほぐす事と、手術時にやらなければならない事は顕微鏡での観察だけではないので、四肢を連動して動かす事や戦略を考えたりして観察することだけに集中することは止めましょう。


第四の特徴として人間の指は、一本だけ動かそうとしてもつられて他の指も動いてしまい指一本だけ動かすことが困難です。言い換えると、人間の指の動きは数本の指を連動して動かす、即ち協調運動するように中枢から指令を受けているとも言えます。このため、μm単位の器具の動きを要求される前嚢切開に際しては、この特性を考慮した指の動かし方と器具の把持の仕方を工夫しなければなりません(前嚢切開の解説)。さて、人間は進化に伴い多くの道具を発明し、それを手足で巧みに使いこなし多くのことを可能にしてきました。鉛筆、筆、ペン、箸、ナイフ、ホーク、彫刻刀、ねじ回し等例外を見つけるのが困難なほど人間は母指と示指、中指をバランスよく巧みに使うことで道具を使いこなしています。以上から、全ての手術器具も母指と示指、中指の三指で扱うことを推奨します。なぜならこの方法が、幼少時より一番使い慣れた指の協調運動だからです。

第五の特徴として、Phaco machineのフットペダルの操作を行うにあたりゆっくりと繊細に足を動かすことが苦手です。このため、急に強い超音波を発振したり、急激な吸引圧の上昇が起こったりします。フットペダルは、必ず利き足で操作を行い、繊細な動きを心がけましましょう(フットペダルの動かし方参照)。核処理は繊細なフットペダルの操作が手術のコツなので必ずマスターしましょう。またこのフットペダルは、自動車のアクセルペダルの操作に似ているため、初心者はアクセルを吹かすように急激に踏み込むからパンチアウトが起こるわけです。似て非なるものと理解してください。

Phaco machineのフットペダルには、車のアクセルペダルのような遊び(ある程度踏み込まないと反応しない)はありません。即ち、踏み込めば吸引圧が上がり、ペダルを戻せば吸引圧は下がります。


第六の特徴として、四肢を個々に異なった動きをさせることが苦手ですが、練習によりそれは克服できます。白内障手術は、四肢を自由に使い、左右の手で角膜にシワが寄らないようにバランスを取り、片足で術野の確保とピント調整をもう片足でPhaco machine を調整しながら行う手術で、初心者にはかなりハードルが高い手技です。初心者は四肢を同時に連動して動かすことができないので、顕微鏡のピント合わせは手の動きを止めてから行うことが常です。また、Phaco machineのフットスイッチを踏み忘れて前房がつぶれていても気づかずに手術を続行している姿をしばしば見かけます。しかし、研修医が歩きながらスマホで両手を巧みに使いながらメールを打つ姿をしばしば見かけます。この事実は、人間は四肢を別々に動かして整合性のある行為を行うことが出来るという意味です。白内障手術時に四肢を同時に別々の動きをさせることは練習さえ積めばできることだと思います。安全のために、マスターできるまではセンタリングやピント合わせは一旦手の動きを止め、右足を潅流状態にしてから行うことで問題ないでしょう。指導医にとっては忍耐あるのみです。

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